クラブミュージックのリスナーだけでなく、アーティストまでもが憧れる音楽レーベル『Warp Record』
圧倒的な影響力を持つレーベルでありながら、所属アーティストは極めて少ない。
ではなぜ所属アーティストが少ないにも関わらず、世界中の音楽シーンで影響を与え続ける存在なのか?
それはもちろん、個々の個性が凄まじいからである。1人1人が正真正銘オールスター。
昨今業界を席巻している『EDM』(エレクトリックダンスミュージック)に多い「どれを聞いても同じ」でビジネスライクなジャンルとは一線を画しており、比較にならない世界である。
Warp Record
1989年・イギリス(シェフィールド)
当時レコードショップで働いていた2人により設立。
設立当初は、主にブリープテクノ(Bleep Techno)を展開していた。
ブリープテクノとはbleepの意味するコンピューターのピコピコした音で形成された、古いテクノのジャンルを指す。
1992年にレーベルのコンピレーションアルバム「Artificial Intelligence」AIが登場。簡単に言うと家で楽しめるテクノをコンセプトにしたAIはシリーズ化で発売され注目を集めた。
AIシリーズの成功を基盤に、イギリスでは不動の地位を確立。その後も独自路線で規模を拡大し、エレクトロニカ、アンビエントなど幅広いアーティストを迎え、実験的なアルバムもリリースするなど、徐々に路線も固まりだす。
『Warp Record』に所属する独特な個性を持つアーティストは、多くの音楽ファンから絶大に指示されるようになり、いつしか名門と呼ばれるまでに成長。
そんな少数精鋭『Warp Record』に所属するアーティストの中でも、特に影響力のある巨匠達について紹介していきたい。
Aphex Twin
エイフェックスツイン/イギリス
リチャードDジェームスによるソロプロジェクト。
この人なくして『Warp Record』は語れない。
テクノ界のモーツアルトという最強の称号を得ているベテラン。
エレクトリックミュージック界が多様化を極める昨今も、独特のメロディーとエッジの効いた音色を武器に、鬼才を放ち続ける。
Richard D James Album
メロディーが子ども向けの遊園地でかかってそうな曲で笑える。 リズムとのギャップが最高。まさにまさに、AphexTwin!!
Drukqs
高速なドリルンベースにプリペアドピアノを用いるなど、実験要素満載の2枚組み超大作。穴があくほど聴いた。
これを境にぱったり新作を発表しなくなり、10年以上沈黙し続ける・・・
Collapse EP
新作だけど、新作じゃないみたい。だけど古臭いわけじゃない。この人のいつまでもブレないところが好き。
新曲をどうぞ!
youtu.beSquarepusher
スクエアプッシャー/イギリス
トム・ジェンキンソンによるソロプロジェクト。
Aphex Twinのお友達。
テクノ/ドラムンベース系のミュージシャンでもありながら、ベーシストとしても一流の彼はエレクトリックミュージック界だけでなく、ベーシストをも虜にする天才。
時には楽器とデジタルを混ぜたり、デジタルに一貫したり、普通にバンドを組むなど、作風に一貫性がないのも特徴。
Feed Me Weird Things
初期の作品。緻密にプログラミングされた超高速のブレイクビーツにファジーなテクニカルなベースの生演奏を融合させた至高の作品。大好き。
Ultravisitor
全編を通して悲壮感の漂う作品。彼のあらゆる要素が詰まった渾身の一枚!!これで全部出し切った感が強い。聴き応え十分。
Damogen Furies
やっといつものSquarepusherが戻ってきてくれた。パワー全開休みなし、ビート地獄、いや天国。
Plaid
プラッド/イギリス
アンディ・ターナー、エド・タンドレイの2人組ユニット。
ブリティッシュテクノの象徴とも言える二人組。歌姫ビョークとのコラボレーターであり、映画『鉄コン筋クリート』のサントラを手がけたとしても知られる。
Warp Recordの中では珍しく、王道のスタイルを貫き、美しい電子音とブレイクビーツを中心にファンを魅了し続ける。
Double Figure
無機質な金属音的な音の集合体といったところ。曲調は全編を通して暗め。まあそこがいいんだけど。
映画、HEAVEN'S DOORの挿入歌として評価の高い曲
youtu.be
Auteche
オウテカ/イギリス
ショーン・ブース、ロブ・ブラウンの2人組のユニット。
『Warp Record』 の中でも特に実験的な作風として知られる。複雑な拍子、調性とは無縁の抽象的な音響、変形していくリズムなど現代音楽に見られるようなアプローチを多く取り入れる。
彼らのライブは、光を一切使わない暗黒の中で行うのも特徴の1つ。
今年8月には4時間を超える鬼ロングアルバムもリリース。
Amber
シンプルな音色とメロディーに、空間系のエフェクトをかけた全編を通して深い作品。
タイトル通りかなりアンビエント寄り。初期の名作。
confield
この作品を機に、超実験的な要素が強くなる。もうすでにエレクトロニカというジャンルを超えているような、現代音楽の前衛的なアプローチが強い。無機質で宇宙空間を漂うよう。レベル高め。
CLARK
クラーク/イギリス
クリス・クラークによるソロプロジェクト。
2001年に、若干21歳で『Warp Record』からデビューして以来、コンスタントに作品を発表し、その度にリスナーを驚かせてきた逸材。多作故に批評されることも多かったが、その結果エイフェックスツイン不在の穴を埋めるような存在となった。
リスニングテクノを制作していたが、激しいダンスフロア向けのアルバムを発表するなど、作品毎に作風を変えるのも特徴である。サントラやオーケストラへの楽曲提供等、活動の幅も広いマルチ作家。
Clarence Park
デビュー作。若さも見えるがWarp Recordに所属する色んなアーティストの要素に刺激を受けているのが分かる作品。
Body Riddle
生音や生ドラムにデジタルを足したストーリー性のある1枚。ドラムにはコンプレッサーがかかりまくっていて、1発1発がとても重い。4曲目に震えた。
Death Peak
2017年に発表したキャリアのピークと評価の高い作品。彼のダンサブルな側面と静寂的な側面が合わさったような新作。
Boards of Canada(BOC)
ボーズオブカナダ/スコットランド
マーカス・イオンとマイク・サンディソンの2人組ユニット。(兄弟)
初期の頃は別のレーベルから作品を発表していたが、オウテカに実力を認められ、1998年、『Warp Record』 との契約に到った。
アコースティックとエレクトリックの融合させた音楽が多く、どこか懐かしい雰囲気と、サイケデリックな一面を持つ楽曲が特徴。激しく荒々しい曲はほとんどなく、アナログチックな音を多用する。
録音した音を、解像度の低いテープレコーダーに1度落としてから組み立てていくなど、その作業手順も独特である。
Music Has the Right to Children
Warp Recordからは1作目、不気味な雰囲気はあるが、光は見える。音質にものすごくこだわりを持っているのも頷ける作品。
The Campfire Headphase
BOCの作品の中で一番聴きやすい作品。サイケデリックな要素もあるが、圧倒的にメロディーと音色が優しく融合している。5曲目Dayvan cowboyは傑作。
その5曲目をご堪能ください。後半から昇天します。
youtu.bePrefuse73
プレヒューズ73/アメリカ
スコット・へレンによるソロプロジェクト。
エレクトロニカ系のアーティストの中でも、いち早くヒップホップへのアプローチを行い、ラップをサンプリングしたものを、分解・再構築するという「ボーカル・チョップ」というオリジナル技法を生んだ。
その他、サンプリングの使用の仕方が大胆で、全く違う音色が目まぐるしく変わるのも大きな特徴。
様々な名義を使い分ける多作家で、prefuse73の名義が一番有名であるが、近年の活動は地元アメリカで行っており、Warp Recordの新作リリースは途絶えている。
しかし間違いなく、Warp Recordを引っ張った1人。
One Word Extinguisher
彼の最大の特徴である、ボーカルチョップや大胆なサンプリングが存分に散りばめられた、ギラついた代表作。オールドスクールのジャズ、ヒップホップに対する愛で溢れている。
最後に
ここまでエイフェックスツイン、スクエアプッシャー、プラッド、オウテカ、クラーク、ボーズオブカナダ、プレフューズ73とWarp Recordを代表する巨匠達を紹介してきた。
しかしこれは巨匠達のほんのプロフィールに過ぎず、素晴らしい作品はたくさん存在する。
バカ騒ぎ目的で同じような曲ばかり生み出されるEDMに少し飽きたら、すこしディープな音楽の世界へ足を踏み入れてはいかがだろうか?
一度この手の音楽にハマると、生涯をかけて付き合うことになるだろう。
そして最後に、彼等の楽曲を理解するために、ヘッドホンやスピーカーなどにはお金をかけて、限りなく良い音で聴くことを強くおすすめする。