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保護した日・・・

あれは一昨年の冬。

珍しく深々と雪の降る深夜午前2時、

僕とドラゴン(飼い犬のトイプードル6歳♂)はビールを買いに出かけていました。

近くのコンビニで買い物を済ませ、家に帰ろうと歩いていると、僕とドラゴンの間に1匹のトイプードルが割り込んで歩いていました。

暗闇の中から突然現れた小型犬に、驚きのあまり叫びました。

「ぎ、ぎょえー!」

一体なんだこの犬は?こんな夜中にどこから現れた?まさかドラゴンが分裂?いやいや、そんなわけないよな。飼い主はどこだ?なんでノーリードなの?

一気に色んな疑問が頭を駆け巡りました。辺りを見回すも、人の姿はありません。

でもトイプードルみたいな人気の犬種が捨てられるってことはないでしょ。

近くに飼い主がきっといるよね。

そう思い、僕とドラゴンはその子を残して立ち去り、家に帰ったのですが、

なんとその子、一定の距離を保って家までついてきちゃいました。玄関の手前でお座りして、こちらを凝視しています。

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(写真はイメージです)

ここで見捨てるヤツぁ人間じゃあないぜ!(東方仗助風)

この日からこの子の里親探しが始まるのです。

妻に相談し、家の中へ迎え入れました。

明るい家の中でその子を確認すると、強烈な異臭と共に皮膚がただれて痩せこけているのを確認。

これはどう見ても普通の飼い犬ではない。

すぐにお風呂に入れました。(妻がね)

お風呂に入れると臭いは幾分マシにはなり、ドッグフードを与えると凄まじい勢いで平らげました。

比較的元気そうでしたが、病気とかが怖いのでその日はケージに入れて1夜を過ごしました。

ドラゴンはその子を怖がって、部屋の隅で一晩中隠れてました。

保護した次の日・・・

マイクロチップとかが入っていれば飼い主が特定できると思い、いつも行ってる動物病院へ。狂犬病の検査もしてもらいました。

先生「狂犬病はとりあえず、大丈夫。推定4歳のメスです。でもマイクロチップは入ってないですね。

ペットショップとかで売られている犬なら間違いなく入ってるはずだから、繁殖目的でブリーダーに飼われていたということ。尻尾も長いでしょ?肌がアトピーで相当荒れているから捨てたんだと思います。臭いもするし。

どうやら、売られている犬は、その方がかわいいからという理由で尻尾を切られるそうです。言われてみればドラゴンの尻尾も短いな。

僕「先生!こういう場合どうしたらいいんですか?このまま飼おうかなとも思ったんですけど、ドラゴンがこの子を超怖がって隠れて出てこないんです・・・だから里親探してあげようと思うんですけど・・・」

先生「まず、保護したという届出を警察にする必要がありますよ。しないと逆に犯罪。可能性は低いけど飼い主が遺失物として届けてる可能性もあるから。

それと、皮膚がただれていたり、病気の犬は、例え人気の犬種でも里親探しは難しいですよ。成犬ですし。なんせ、ドラゴン君のことを1番に考えてあげてください。」

先生は里親探しに時間をかけるとドラゴンの負担になることを心配しているようでした。

そんな先生のアドバイスもあって、すぐに警察署へ。

確認してもらいましたが、思ったとおり、飼い主からの遺失物届けはありませんでした。

警察官「えーと、この迷い犬を一時的に保護できますか?」

僕「断ったらどうなるんですか?」

警察官「署で預かって、持ち主が現れなければ保健所で処理してもらいます。里親が見つからなければ殺処分ですね。」

なんでわざわざこっちが悪者になったみたいな言い方するんだよ。

まあでも僕はできることをした。

家では保護できない。と答えて署で預かってもらうことになりました。

保護してから5日後・・・

警察署から連絡がありました。

持ち主が現れないので『保健所』に連れて行くと。

ん??遺失物なら届けてから3ヶ月で僕に所有権が移るのではないのか?つまり3ヶ月は署で保護してくれるのでは?

どうやら動物の場合は『遺失物』つまり「モノ」として扱われるのですが、警察署での保護が困難なので、期間を待たずして保健所に連れていくそうです。

で、これは何の電話なの?

保健所に連れて行くけど、それでお前はいいのか?見捨てるのか?ひとでなし!って言いたいわけね?

僕は言いました。

「もう家で保護して里親探します。」

保護した日から6日後・・・

里親探しの手段ですが、最初からSNSしか頭にありませんでした。

どの媒体を使うか考えましたが、みんなが実名でやってるfacebookを利用しました。

写真と肌が荒れていることを含めた紹介文を記載して、里親募集。連絡をください的な内容を掲載。

友達のシェアにより情報が拡散し、数人から連絡がきました。

その中の1人に、是非引き取りたいだけど、動いている動画を送って欲しいだの、肌のアップや口の中の写真も送って欲しいという20代前半の男性がいました。

あと、1週間のお試し期間を設けてくれないか?と。

は?こっちはそんな返品サービスとかやってませんけど。

色々とめんどくさい条件を付けてきましたが、相手も不安なんだろうと我慢して全て従いました。

言われた通り、その子の色んな動画や写真、体調なんかを伝えるやり取りをして、引き取る約束をしていた当日、まさかの一言が返ってきたのです。

「うちのマンションペットダメみたいです。本当に申し訳ありません。」

かける言葉も見つからないので無視。

保護した日から8日後・・・

またまたfacebookを通して、一度見に行きたいと連絡あり。

市外を飛び出して、誰の知り合いかすら分からない22歳のギャル。

アイコン写真から漂うヤンキー臭に不安がよぎります。

日取りを決めて、一度我が家に見に来ることになりました。

ギャル「その子見に行く日、一人で行かなくちゃダメですか?ちょっと怖いんでお兄ちゃんと行っていいですか?」

どうぞどうぞ、お兄さんもいらしてください。っていつ誰が1人で来いって言ったんだよ笑

保護した日から10日後・・・

ギャルも働いてるということで、待ち合わせは夜の8時。

ギャルとお兄さんが車でやってきました。

予想に反してちゃんとした清楚な服装で、お兄ちゃんはスーツ姿。

キティーちゃんのサンダルを履いてくるほど下品な女子じゃなくて安心しました。

空気の読めないドラゴンがギャルにかけよります。

肝心の保護した子はそこまで人懐っこくはありません。初めて会うギャルに緊張しているようでした。

ギャル「ドラゴンかわいいー」

お兄ちゃん「ドラゴンが欲しい?」

ギャル「うん!」

僕・妻「おい!笑」

少し他愛もない話をして、おなかも減っていたので、僕と妻とその兄妹と4人でデリピザを食べました。

ギャルは明らかに迷っているようでした。

自分に駆け寄ってくるドラゴンと、心に傷を負った内気な迷い犬を比べて、懐いてくれるか自信が持てないのは分かる。

僕ら夫婦は言いました。

「ここまできたら何か断りにくいし、迷うギャルさんの気持ちはすごく分かる。でも他にも連絡くれてる人もいるから無理しなくていいよ。わざわざ遠いところからありがとう」と。

ギャルは何も言いませんでした。

お兄ちゃんが迷うくらいなら今回はやめておこう。と口火を切ってギャルを連れて帰ろうとしたとき、ギャルは言いました。

ギャル「私、やっぱりこの子を飼いたい。自分に懐いてくれるか不安はあるけど、時間をかけてやってみます。母親も家にいるから寂しい思いもしないと思うし。私もアトピーで悩んでた時期があったから、肌のこともケアしてあげたいんです!私に飼わせてもらえませんか?お願いします!」

え、待ってめっちゃええ子やん。泣きそうなったわ。

そんなこんなで里親は、22歳ギャルに見事決定。

僕の里親探しは最初に保護してから10日で幕を閉じました。

数日後、名前は「ゆず」にしたと連絡がありました。

その後...

それからというもの、ギャルはゆずちゃんの写真を頻繁に送ってくれました。

今日はお手を覚えたとか、病院で肌のことを相談したとか。

いつの間にか、あんなに酷かった肌荒れは完治しており、毛質も艶やかになっていました。愛情を注いでもらっているのが写真から伝わってきました。

年末に、寒いからって服を着せてもらったゆずと、兄妹が散歩している写真を見た時、僕は声を出して泣きました。

ギャルの家族は父が単身赴任ですが、母親が専業主婦だから基本は家に誰かいる。

僕ら夫婦は共働きなので、ドラゴンは1人で家にいる時間が長い。

なあドラゴン、お前よりゆずの方が幸せそうじゃね?

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