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え?まさかあの子がウツ?信じられない。

ウツとは無縁そうに見える子に限って、よく精神を病む。

そういう話は意外とよく耳にする。

今から話をするツレとその嫁も、ウツとは無縁そうな僕の高校の同級生夫婦だ。

若くして某有名アパレルショップの店長として抜擢されたものの、その重圧にストレスを抱えたツレの嫁は、2年ほど前に障がい者手帳が支給されるレベルの重度なウツと診断された。

彼女は、学生時代からとても明るく、ちょっとお馬鹿で元気な女子だった。

ウツと診断される前も後も、明るくて、ちょっと何言ってるか分からない感じの愉快さは健在だった。

突然、いや徐々にだったのだろうか、ストレスを抱えて自分の限界量を超えてしまったことで、彼女は社会生活ができなくなった。

その症状は、大きく分けて3つ。

電車に乗ることができない。

繁華街の人ごみが怖い。

過食症。

電車は、かつての通勤を連想させるようで、駅に着いて電車に乗ろうとすると貧血を起こしたり、嘔吐するなど深刻だった。人ごみも長時間となると過呼吸を引き起こす。

そんな重度の症状を抱えているにも関わらず、僕達はそれに気が付かなかった。

なぜなら友達と遊んだり車で出かけたりといった行動では、症状が現れることはなかったからだ。

彼女が仕事をやめたのも、てっきり寿退社だと思っていた。

でも過食症は違った。

食べすぎは外見に表れて、彼女はみるみる内に20kgほど太った。といっても友達と遊んでいる時に暴飲暴食をするわけではない。

深夜一人泣きながら、大盛りパスタを食べていたそうだ。

周りに迷惑をかけたくないと、リストカットも数回。

一番深刻だったその頃、僕らにもツレから自分の嫁が重度のウツだと打ち明けられた。

胸が苦しかった。

夫であるツレも困っていて、何とか力になりたいとは思うものの、仕事もあるため日中は気にかける余裕がない。

そんなある日、僕達はその夫婦の家へ遊びに行った。

相変わらず僕らの前では元気そうだった。

たくさんの手料理やシャンパンを用意してくれており、とても楽しみにしていたんだと言ってくれた。

彼女が日中家でじっとしている環境を変えなければ、とツレから相談されていたので、帰り際、僕らは外に出るきっかけ作りの為にある提案をした。

人妻弁当

料理が趣味の彼女が、平日僕らのお昼ご飯としてお弁当を作り、それぞれの職場や営業先まで届けるというもの。

もちろんお金は払う。

彼女もお小遣い稼ぎになるし、人に会えるし外に出れるしいいリハビリになる。

名づけて人妻弁当、どお?

彼女は乗り気だった。早速始めたいと具体的な話になった。

話合いの末、ルールはこう決まった。

注文は前日までに弁当専門のLINEグループで伝える。メニューのリクエストはある程度は可能で、ご飯の量も調節可能。当日の朝、時間と場所を伝えて、彼女は指定の場所に配達する。配達料込みで1食500円。(今思うと安すぎたかな)

それからというもの、僕はほぼ毎日、ツレのウツの嫁がこしらえた人妻弁当を食べた。

たまーにダイエットと言って2時間歩いて汗だくで来ることもあったが、移動距離が長かったので車での配達が主流だった。

顔色の悪い日もあれば、とても元気そうな日もあり、病気のことを知っている僕らには元気なフリをするのはやめて、正直に今の体調や不安な思い等を話してくれた。

事務所に持ってきてもらうこともあれば、近くのホテルまで持ってきてもらってロビーで一緒に食べたり、みんなで集まって公園で食べたりもした。

事務所着いたけど駐車場が全然空いてないから公園でいい?

いいんだけど、ポケモンGOがさぁ

ポケモンGO?なんのこと?

今なんかレアなモンスターが出現してるみたいで、この公園けっこう人が多いんだよ。

だから?

人ごみだから過呼吸なるでしょ?

それは人ごみじゃなくて人だかりだろ!!そんなもんでなるか!!

というように、あえてネタにしながら楽しんだ。

食べた後は、必ず毎日味の評価はして欲しいという彼女の要望から、「今日のコロッケは最高だった。あんなおいしいコロッケ食べたことない。」と絶賛の日もあれば、

「サラダのドレッシングかけすぎ。病気なるわ!」とか「肉が硬すぎて歯が折れた」等、低評価の日もあった。

米の量を10粒減らして欲しいという細かすぎる注文にも対応してくれた笑

10回頼んだら1回無料とか特典まで付け出して、僕らも楽しかった。

たまに僕が事務所の休憩室で弁当を食べてると、

あれーせんぱーい愛妻弁当ですか-?いいですねー

あ、これ?これはね、人妻弁当だよ。

え!?なんですかー?愛人とかに作らせてるんですかー?

違うよ、実はね・・・

素敵過ぎて泣きそう。それにおいしそう!私も頼めるんですか?

みたいな会話が同僚と頻繁にあった。

会社周りの賛同もあって、何度か数人分を頼んだりもした。

次第に顧客が増えてきて、米の供給が追いつかず彼女は炊飯器を大きいものに買い換えた。

もうこれ以上顧客増やさないで!!死んじゃう

そんなこんなで約1年続いた人妻弁当も、

7月末をもって終了した。

彼女の就職が決まったからだ。病気のことも理解してくれた上で採用してくれたらしい。もう僕らの弁当なんか作ってる暇はない。

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僕達が1年間やったことは、彼女の社会復帰に役立ったのか?

そんなの別にどっちでも構わない。

僕達は、彼女からただ弁当を買っていただけであって、

ツレのウツの嫁を助ける為に立ち上がるぞ!!おー!

という自己犠牲感や奉仕精神は、元々なかったからだ。

結果的にその軽い感じが彼女にとって、楽に続けられた要因だったのかもしれない。

私の為に皆、気を使ってくれている。

わたし、頑張らなくっちゃ!!という気負いはウツを一番悪化させるから続かなかったかもしれない。

途中良かれと思って顧客増やしすぎたのは、プレッシャーだっただろうな笑

もし、周りにできることがあるのなら、してやっているとか、協力しているとかそういう考えは捨てて、相手にも、してもらって悪いなと感じさせないことが最も重要だと思う。何より大切なのは継続することだから。

継続こそが、社会復帰の第一歩なのである。

今日は地元で大きな花火大会がある。

彼女は夫と二人であの人ごみの中へ出かけるそうだ。

少しだけ痩せてきたその体に浴衣をまとって。

はぁ~来週から毎日昼食を考えないといけないと思うと憂鬱だなぁ

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