生活困窮者自立支援法という法律をご存知でしょうか?
生活に困窮している家庭でない限り、あまり馴染みのない法律かもしれません。
内容はまさに言葉通り。生活に困窮している世帯に対して、自立を支援する法律。
支援が必要な家庭または世帯に対して、様々なメニューを組み込んで、自立支援を促すという内容で、平成25年に施行された比較的新しい法律です。
その具体的な概要がこちら
- 自立相談支援事業(自立に関する相談支援)
- 住居確保給付金の支給(経済的に困窮し住宅の所有権を失う、または家賃の支払いが困難になった生活困窮者に対し家賃相当の「住居確保給付金」を支給する。)
- 就労準備支援事業(就労に必要な訓練を日常生活、社会生活それぞれの自立を目指し支援する。
- 一時生活支援事業(住居のない生活困窮者に対して、宿泊場所の提供等を行う。)
- 家計相談支援事業(家計の支出等に関する相談、管理に関する指導を行う。)
- 学習支援事業(生活困窮家庭の子どもの学習支援を行う。)
上記から構成される自立支援法の内、「貧困の連鎖」を断ち切ろうという施策が、学習支援事業なのです。
この学習支援という法案の狙い
生活に困窮している世帯は子どもを塾等に通わせる費用を捻出する余裕がないので、学校の勉強に付いていけない。学校の成績が悪いと公立高校に進学できず、就職も難しくなり貧困が連鎖する。この打開策として被生活保護世帯、または生活困窮家庭に対して無料で学習塾を開講する。
つまり、この学習塾に通わせてさえおけば、高校進学に繋がり、その後の人生も開けるだろうという法案なのです。
僕は、この学習支援事業の立ち上げ、運営に4年程関わっていた経験があり、
これまで延べ100人弱の生徒、その親と向き合いました。
問題提起も含めて、学習支援事業について少し触れたいと思います。
学習支援事業の概要
週2日、18:00~20:00
対象は中学1~3年の男女(短期集中で小学生クラスも有)
貧困家庭の「学力の低さ」には複雑な背景がある。
学力の低い生徒にはそれぞれ事情があり、単に週に4時間勉強を教えるだけで高校に進学できるような成績にない場合がほとんどです。
学力が低い背景も複雑で、単に勉強が嫌いという単純な要因もあれば、いじめを受けたことにより学校に行けなくなった。親が子どもに依存して小学校に通わせていなかった。義父から性的虐待を受けたことがトラウマで何も手につかない等、もう学力を向上させる以前にもっとやるべきことがあるだろうというケースも少なくありません。
それら様々な事情を抱えた子ども達を一箇所にまとめて、どうぞ無料の塾です!ここで公立高校目指しましょう!と言ったってとても無理な話ですし、家庭教師や無料塾という考え方では根本的な問題は解決しない。そんなに単純ではありません。
ただ1つの共通点。「勉強の仕方を知らない」
学習支援に参加する子どもは、勉強の仕方を知りません。
その多くは自宅での学習は一切しておらず、学校の授業だけでテストに臨みます。
中には自宅で学習をしている生徒もいますが、問題を解く→分からなければ答えを写す。もうこれで身に付いたと信じています。これでは答えを1人で導き出す力にはなりません。
そもそも「なぜ勉強するのか?」に疑問を持つ子どもは多くいます。
子どもの将来に不安を抱く親
学習支援に参加させている親のほとんどは、子どもの教育や学校の成績に興味がないのではなく、自身の持病や異常な拘束時間のアルバイト、また兄弟の子育てに終われ、子どのも成績や学習にまで手が回っていないという印象を受けました。
また、勉強を見てあげたいが、自分には教える学力がないから、机に向かっている姿を見ても、何をしているか、してあげればいいか分からない。と泣きながら訴える母親もいました。
中には、公立高校はもはや絶望的なので、中学を卒業すれば、できる仕事を探してすぐに弟や妹の生活の為に働いてもらう。と断言し、高卒資格がその子のこれからの人生において、どれだけ重要かを理解できていない親もいます。
自立を阻止する親
嘘みたいな話ですが、公立高校を諦めて中学を卒業したら働くという意志のある子どもを引き止める親がいるのです。
では、なぜ阻止するのか?
世帯に収入があると生活保護費が減るからです。当然なのですが、この保護費が減るという目先の懐を気にする余り、子どもの就労に反対します。
そのような親は、自分が子どもの頃も同じような環境で育ったケースが多く、生活保護費に頼って生活できているという甘い生活から抜け出すことが出来ません。
生活保護費が高額すぎるとか、制度がおかしい等、他にも問題はたくさんあると思います。しかし、現状はこういった理由から、子どもも保護費にあやかって生きていけばいい不自由はない。と考える親が少なくないのです。
被生活保護世帯と生活困窮世帯
生活困窮者自立支援法の対象には、上記の2種類が存在します。
何が違うかは、被生活保護世帯は生活保護費の支給があり、生活困窮世帯に対しては生活保護費の支給はありません。
名前だけ比較すると、被生活保護世帯よりも生活困窮世帯の方が若干お金に余裕があるように思われますが、子どもの身に着けている服などを見る限りでは、明らかに被生活保護世帯の方が裕福という印象を受けます。
スマートフォンも困窮世帯の所持率は低く、被保護世帯においては大体の子どもが持っています。
もちろん被保護世帯の小・中学生が持っているスマートフォンは、国民の税金で支払われているものなのです。小・中学生のスマートフォンの所持が、生活保護法の前提である「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」に果たして該当するかどうかについても検討する余地がありそうです。
貧困は連鎖するのか?
僕は、貧困は連鎖すると思います。
子ども達の学力を向上させるには、勉強の仕方について教えることはもちろん重要ですが、自分の「生き方」について選択肢を広げる可能性が「学習」の中には詰まっているということを理解してもらうことが重要ではないでしょうか。
経済的に恵まれていない状況の支援対象者だからこそ、少しでも早くそれに気付いてもらい、学習に対するモチベーションを高めることが支援者の使命だと感じています。